1階が子どもの、2階が大人を対象とした歯科クリニックとして関東近郊の良好な住宅地の一角に計画された。
いまや小児歯科は虫歯の治療を主目的としたものから「予防」を主眼とする日常生活の延長線上の取り組みとしての変革期にある。そうした予防プログラムの実践は旧来の治療室では収まらずそこからはみ出した場所として、子どもが親しみを持つ公園の遊び場のような様態こそが相応しい。子どもにとっては「遊び」という日常との地続きに「予防」プログラムが組み込まれ、「遊び」の中で歯の大切さを学び、適切なメンテナンスを楽しみながら獲得していくその機会となる。また待合室を兼ねるこの遊び場は地域に開かれ、歯科に係る啓蒙活動や、食や睡眠といった「歯」に連関する様々な取り組みや講演など、多様な活動が展開していくその舞台となることが目指された。
良質な並木道に沿って建つ建築は街路に面してより積極的に開いていくこととした。上述の子ども歯科プログラムの実践や、地域に開いた活動、2階の大人の診療が街路樹のある街を背景として取り込むことで、陽の光も流れてゆく時間もそのすべてが街と伴走する共有関係を形成するとともに、街に向けて活動の一端を常に発信していくことが地域とともに在り、地域に根ざしていくことへの強い意思表明とすることを目的としたものである。
バス停の前のエントランスコートに据えたベンチに深い影が落ちる。
そこで静かに佇むふたりの老人はこの医院に縁のない地域の誰かに過ぎない。けれど、そうした属性などここでは問われることはない。街にはささやかであってもそうした誰もが発見し選び取る自由な場所を必要としていて、個々人によって差し出された好意の集積が良質な街をつくっていくことを誰もが知っているのだ。