街並みや近隣との良好的応答関係形成を目指して、単一矩形平面に南側を除く隣地および前面道路に面する三面に対して軒高さを低く抑えた寄棟屋根を架けることよりはじめる。
矩形平面の寄棟屋根によって包摂される空間ヴォリュームの中において、それぞれの諸室が必要とする大きさや諸室間同士の繋がり、あるいは外部との接続性の在り方など空間の適切性に呼応させながら布置してゆく。同時に緩やかな敷地内勾配になじませ接地性を高めていく作業は結果、スキップ状の空間配列を生み、それら一連の空間配列の試みは全体ヴォリューム内を効率的に満たしていくことと同義的作業となった。
単一なヴォリューム内に諸室の空間配列を行う過程において、外部空間もひとつの単位として取り扱い組み込むことで、外部空間と内部空間における「地」と「図」の関係性の萌芽がうまれ、その対比は寄棟屋根に依り統合化された外観の印象からは内部空間を「図」とした、「地」としての外部空間として捉えられるものの、内部空間体験にあっては「地」と「図」の反転が起こり、緑の中(外部空間)に囲まれた内部空間が立ち現れる。
また内部空間と同等に取り扱われる外部空間は内部空間へ多様な質の光を与えると同時に、プライバシーの保護としての緩衝帯として機能する。
外形を複雑化し内部空間の多様化をはかることは容易い。しかし「家」には統合性を有するシンプルで力強い表徴性を必要とし、統合化された骨格の下に多様な空間の現出を目指したい。様々な質の居場所が用意され、しかしどの場所にあっても家族によって紡がれていく生活(物語)を受容する抱擁性が示され、多様的であっても統合化されたイメージ、具体的には大きな傘の下でお互いの居場所を認め合い、刻まれていく履歴を確認する関係が生まれる場所をここでは「家」と呼んでみる。
大屋根の下、様々な形式の開口部を通じて1日の時間の流れを足跡のように記述し続ける光もまた。