地方都市において、より多くの駐車台数を確保することは優先順位の高い配置計画上の与条件となり、そうした至上命題を満たしながら敷地環境を読み解き、室空間の環境を向上させていくことが配置計画上の要件となる。
(公共性を有するポンプ場ゆえの)ゆとりある配置が特徴となる南面と、緑地帯が良好な隣棟距離を生んでいる東面を評価し、南および東面に対し、敷地境界線際に建物を近接して配置する。
南および東面への近接配置は、駐車台数の最大化を目的としたものであるが、平面計画上においても、諸室群をコンパクトに配置することが求められる。
具体的には『ゾーン配置の明確化』の実践、つまりは「外来」「病棟」「分娩•手術」「関係者」各ゾーンを明確にゾーン化することにより動線上の最適化を計る。しかし、『ゾーン配置の明確化』は合理化を目指すことを主たる目的としない。合理化を指向する空間配列は均質で(平坦で)退屈な空間を生んでしまう宿命は歴史がそれを証明するが、ここでは『ゾーンの配置の明確化』を目指しながら、平面計画上の(運営上の良識により峻別された)転換が計られる。
旧来の管理者側からの視座により決定していた「病棟ゾーンを1フロアに集約する配置計画」は管理する側の合理化を根拠としている。ここではむしろ、すべての病室を南向きとし、病室の(あるいは患者のための)環境の向上が優先された。共用空間を各階に配置することで、このクリニックで一定期間滞在する患者に対し、階を縦断する、豊かでヴァリエーションのある空間体験となってほしいという願いもそこには含まれている。
また、「患者と関係者の動線分離」に関しても、主要動線は機能上分離しながら、一部階段など(許容される範囲内で)、両者の接触の機会を増やすことが患者と医療従事者とのコミュニケーションの発現と、結果生まれる両者間の親和性の向上に期待している。
上述の通り、建物が敷地境界際に配置されること、あるいは「産婦人科」が有しなければならないプライバシーの確保に対し、『外部との接続の在り方(外部に対してどのように「開かれ、閉じられるか」)』が問われている。
特に、外部との接続の接点となる開口の形状は、個室群に於いては内部側要請に従い、つまりはその空間に求められる光の質や切り取られる風景に対する考察と共に、適切なプライバシー確保と近隣への配慮などによって慎重に開口の形状および形式が決定される。
また、パブリックスペースとなる「待合室」「2階ラウンジ」「3階多目的室」は、前庭(や、3階多目的ホール等はテラス)を経由し、間接的に外部と接続する。前庭等を経由して外部と接続することで、外部からの視線に直接的にさらされないことから、前庭等に対して広く開かれた「開放的で光で満たされる空間」が創出される。
また、同時に、外部(社会)に対し、前庭等がクリニックの持つ表徴性を発信する役割を担うことになる。たとえば、緑(樹木)で満たされた明るいクリニックの表徴性がこれに該当する。
内部空間体験の中で、様々な視点で捉えられる前庭の樹木は本医院のシンボルとなる。
待合室で見上げた樹木は、ラウンジにやさしく陰を落としていたそれであり、ここで行われる様々な出来事や場面を記述し続けていくだろう。