人生をひとつの長い道のりの「道行き」として捉えたとき、この建築を巡る様々な物語もまた、君の人生の序章として語られることを。
この医院は産婦人科としての医療形態と共に、「地域へと開かれた医院」を目指してもいるから、ラウンジから多目的ホール、そしてテラスへと一体化した空間で行なわれる様々な行事に、やがて成長した君たちもきっと訪れる機会があるだろう。
そして、そのときにはぜひ君の母親がかつてそうしたように、この建築を巡ってほしい。
待合室では、君たちが生まれることについての期待感と同時に不安感を抱く母親に、囲われた前庭が優しくそれを癒していることに気付くだろう。
そしてエントランスホールからラウンジへ、そしてテラスと一体化された多目的ホールに至る「道行き」の中で、階段に差し込む光や、外部との関係に於いて慎重に穿たれた開口から見える空の色を感じながら、君の母親だけでなく、君が生まれたことを知って駆けつけた家族を優しくも、荘厳な気持ちにさせていたことを知るだろう。
君が生まれた後、天井の高い吹き抜けのラウンジでスクリーン越しに差してくる優しい光りに包まれて、あるいは外部の視線から守られたプライベートなテラスで、君が生まれたことを家族で楽しく語らい、そして一人静かに幸福感に満ちて過ごした午後が確かにあったことを、君もまた思い巡らせてほしい。
1都市に開かれた親しみのある医院建築をめざして
比較的低層建築の並ぶ近隣への配慮として、前面道路に対し「前庭」を緩衝帯として設けることにより、威圧的になることなく「緑をもって街並に参加する」という旧医院の意志を継承する。また開放性の高いプログラム(ラウンジ)を前面に配置することにより、透明感のある開かれた医院として象徴化する。
2諸空間の連関性
各々の部屋の独立性を確保した上で、パブリックゾーンとしての1階エントランスホール、2階ラウンジ、3階多目的ホールに至る開放系空間の連続性を高める。それらは『内部化された街路』的な楽しみを与え、ここを利用する人々の交流を触発し、様々な出会いや語らいの場を提供する。特に吹抜けを媒体として立体的に連続するラウンジ、多目的ホールは、地域密着型医院としての様々な行事・イベントに対してフレキシブルに対応可能となる。
3明快なゾーニング計画
・外来診療部門(診察室、内診室、受付、待合室、プレイルーム等)・分娩・手術室部門(LDR、手術室、NS、新生児室等)・病棟部門(病室、リネン庫、洗濯室等)
・ホール部門(多目的ホール、ロッカー室)
・関係者部門(医局、院長室、副院長室等)
・サービス部門(厨房等)
大きく上記の6つのカテゴリーに分類される諸室群は、同時に各々の部門を横断するかたちの連携も必要となる。そういった入り組んだ関係性を、機能的動線距離の短縮化を計りながら「一般動線」と「関係者動線」というかたちで整理することにより、諸機能の有機的な連携とプライバシー確保の向上を可能にする。
4様々な外部空間
プライバシー確保の為に外部に対して閉ざされる傾向にある産婦人科医院を、その場に応じた様々な外部空間をしつらえることにより、開放的で明るい医院建築となることを目指す。
[前庭]
喧騒から遮断された、よりプライベートな緑豊かな庭とし、待合室利用者にとって落ち着きのある癒しの場を形成する。
[2階テラス]
2階ラウンジ利用者を外部の視線から守ると共に、外部と内部の緩衝空間としてエレベーションに、より多様な表情を与える。
[3階テラス]
多目的ホールに連動して、様々なアクティビティの高い利用形態を促す。