「自然の中にいる(自然とともにある)」様態は現出されるか。
そして、建築に依って「自然への新たな視線がうまれること(建築を通して自然が顕在化すること)」をめざして。
ゲストハウスとしての本建築は、「ダイニング」「キッチン」「和室」といった、そこでの行為が空間の質に一義的に反映されることが求められる『主体空間』と、それら主体空間を接続する『補完空間』(ホール、ギャラリー)に依り構成される。
『主体空間(ダイニング、キッチン、和室)』にあっては、それぞれに求められる要求や、結果生まれる空間の質が異なるそれら諸室群を,それぞれの室要求に応じて部屋の大きさや固有の性格(その部屋に相応しい空間形態や材質など)を与えながら、独立性を高めるよう配置する。そして離散的に配置したそれら『主体空間』を、『補完空間』であるホール、ギャラリーが繋いでいくことに依り全体形が与えられる。
『補完空間(ホール)』は文体における接続詞あるいは助詞として『主体空間』を相対化しながら繋いでいくが、同時にプライバシーの階層化を目的としてリニア(線状)に展開される『主体空間』の配置計画は、エントランスコートから浴室に至る「道行き」として、路地を散策するような深度のある奥行性を与えるだろう。
『主体空間(ダイニング、キッチン、和室)』は固有の特性を有するような様態として計画される。一方、それら『主体空間』を繋いでいく『補完空間(ホール、ギャラリー)』は固有の性格をもった『主体空間』とは異なりフレキシビリティー(融通性)のある空間を目指す。
フレキシビリティーとは限定された性格を有した空間ではなく、むしろ様々な活動に応えられるような無限定性であることをいう。
ホールは川に面した開口部を開け放つことで半外部空間(テラス)として自然を内部に取り込み、自然との親密性を高める。一方、開口部を閉じ内部として利用することで、内部空間の拡張域として活動が多様に広がるだろう。
また『主体空間(ダイニング、キッチン、和室)』が性格上、プライバシー性の高さや、外的環境(台風などの自然災害や不法侵入者など)からの防御性を求められる点において、『補完空間(ホール)』が『主体空間』を包囲することに依って、安全上(セキュリティー上)の緩衝空間として機能する。
『補完空間』の外皮となる開口部、ルーバー等の制御に依り、ホールは日本建築の「縁側」あるいは「土間」空間のように、外部と内部空間の緩衝領域として光の分布形状の多様さを含め、様々な表情を与えるとともに、外界(自然)に対しては、自然を切り取る風景が現出することで、自然に対する新たな視線が生まれることを期待している。
ホールの窓を大きく開け放ってみる。
大きく息を吸い込むようにして、小川が山の奥から運んできたひんやりとした風が建物の中を通り抜けていく。
その風を追うようにして、小川の奏でる音がやがて室間を縫うように、あるいは反響を繰り返しながら満たしていく。
床面に落ちた柱の影が時を伝える。
高窓越しに見上げた雲がその動きを少し早めた。