住宅から事務所へのコンバージョン

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STOコンセプト1
STOコンセプト2

コンバージョン考
 
コンバージョンとは「用途変更を伴う転用(改修)」を意味する。
美装を目的とした改修ではなく、ビルディングタイプの改編を伴う改修であり、今回のプロジェクトである「住居」から「オフィス(会議室)」への改修はそれに該当する。
 
コンバージョンが社会資源の有効利用という意味に於いて、あるいは環境問題に対するひとつの応答としての、その有効性に関する記述はここでは省略する。
事業面や技術面での可能性に留まることなく、既存建築に新しい機能やデザインを重層させ再生させる手法にこそ着目しなくてはならない。
 
通常、新規の建築計画にあっては、まさに白いキャンバスに絵を描く様に設計を始める。
そこでは形態や物質的な容積などのあらゆる制限から自由となる。求められる空間へとヴォリュームを決定し、光や風の取り込みに注視しながら適切に開口部を設定し、空間に無二の性格を与えようとする。
敷地上の特性は建築に対する与件となるが、その多くは建築化への制限というよりは、むしろ建築空間に特性を与えるための手掛かりとしてそれらは参照される。
ただ、改修にあっては既に物質上のあらゆる規制が現前としてある。
さらにはコンバージョンの場合、用途変更によって旧建築にとっての与件(開口やヴォリュームなど)は新しい建築用途に対しての与件として保証されていない。
本来ならば、目指すべき空間の質を形成するために空間のヴォリュームを決定し、開口の大きさや位置の最適化を計る作業がここでは無効となる。
むしろ現前としてある様々な与件に着目し、そこから生み出される空間を想像することから始めなくてはならない。
「すでにここにある」すべての与件を肯定的に受け入れ、評価し、やがて生まれてくる空間へと新たな解釈を与えながら現出させることがここでの主題となる。
 
 
長い間、そこは住居として利用されていた。
マンションの最上階。
2階にある税理士事務所の拡張域として会議、講演などに使用するための多目的スペースとして改修すること(コンバージョン)が今回のテーマとなる。
 
既存開口部(窓)を読み解き、再評価することによって新たな空間的配列が決定したと言える。
具体的には、既存の和室の続き間に開けられていた彫りの深いふたつの窓を「会議室」への穏やかな光を取り込むための開口として評価し、ブラインドを伴う窓として再生することとする。北側の窓にあっては日中を通して均質な光を与えるという効果に期待し、執務コーナーとしての配置が決定された。
また、隣地斜線制限によってのみ生まれていた残余的なテラスは、開口部に依る内部との連関性を計ることで視覚的広がりが内部空間に与えられるとともに、アクティビティを伴ったテラスとしてその利用形態が広がることに期待している。
空間配列上、既存和室の保存のために生まれた動線部を「ギャラリー」と呼応し、代々受け継がれてきた事務所のこれまでの歩みを陳列するためのスペースとし、そこでは既存の開口(窓)を転写した布スクリーンを設けることに依り、既存建築の持っていた開口の効果に離反することなく、スクリーン越しの柔らかな光という新たな解釈が与えられる。
 
その他、施主にとっての思い入れのある建設当時のタイルを保存することや、照明形式の改編により可能となった会議室の天井高さの変更等、様々な改修がここでは行われたがすべては既存建築の持つ与件を忠実に、時には新たな解釈を与えることを主題とし、明らかな逸脱を回避していく手法を採用することとなった。
 
ここを訪れ、利用する人がそうした経緯に気づくことなく受け入れること。
つまり、違和感なく室間の連関性を受け入れ、窓から注ぐ光の質や、そこから見える風景に時の連続性を感じ取った時、今回のコンバージョンはその目的を果たしたと言えるだろう。

STOエントランス
STO会議室1
STO会議室2
STO会議室3
STOテラス