主たる用途は「(多目的な利用を可能とする)ホール」と、「(4室の)医師室」「事務室」および「スタッフルーム」で構成される。
2013年竣工の本医院は市街化調整区域への建設に依り建築面積等の制限を受けたものの、当時、室数および諸室面積が充足しないことを想像さえしていなかった。
ただひとつ、患者の本クリニックへの支持が事前の予測を凌駕したのだ。
今回の増築計画内に関係者室群(医師室、スタッフルーム、事務室)を引受けることによって、本院内においては潜在的医療ニーズに応えるべくプログラム上の(用途上の)再編成を行うことが主目的となる。
また、それら本院内の充実度に向けた取組みは今後継続的に更新されていく医師による高度医療への探究心への応答を伴う環境整備が命題として与えられ、かつ充足性を高めた環境整備こそがより高い安全性を担保するという医師の強い信念に導かれたものである。
そして多目的ホールの新設にあっては、他医院との絶対的差異化を目指した多様な医療プログラム実践のために広さを含むより高次な環境が求められ、再整備される多目的ホールは本院設計の際に目指された「家族」へのまなざしを継承した取組みとするとともに、女性の周産期を広義に捉えることによって地域医療としての役割を拡張していこうとする医院の意思を形象化することが求められている。
多目的ホール
多目的ホールにおいて、将来にわたり展開される活動の多様さをいまは予見することなどできない。
時代の要請に応えていかなくてはならないという自覚と、時代を先見する活動への意思のみがそこにあり、建築は柔軟な応答性こそが求められている。
よって、紋切り型の形式性を依拠とするのではなく、「自然」を参照体とした空間の様態を目指すこととする。
「自然」を参照体とする試みとは、「自然のなか(たとえば森のなか)での活動」のように、自然のなかの現象性に近似した空間形質を与えること。具体的には「木々に囲まれ、上方からは自然光が木漏れ日のように降り注ぐ」様態を現出させることが、(特定の時代性を刻印しないかわりに)普遍的価値として、永続的にここで行われる多様な活動内容に寄り添う背景となるだろう。
スタッフルーム、医師室
医療従事者の担う重責とそれに係る心労は想像の中に留まる。しかし、人の生命を預かるという尊厳性こそがその心労の所在を教えてくれる。そうした激務にある医師やスタッフにとってはまずは第一義として「休息」の場として整備することが相応しい。
スタッフルームにあっては上述の多目的ホールと同様に、ピロティおよび植樹帯をバッファーゾーン(緩衝帯)として階層的に緩やかに外部に開いていくことによって、開かれながらもプライバシーが確保された良好な環境を整備する。
また医師室は高い天井高さが生む開放性によって心労に対する癒しとなることを目指すとともに、就業環境となるクリニックとの空間的コントラストの発現によって(クリニック空間とは異空間となることを目指し)、「一時的な家族との親和性の確保」や「ひと時の音楽活動」、または「探究心に支持された研究」など、個々の医師にとって様々な活動が軌跡として蓄積されていく「家」のような様態を目指すこととした。
また「休息」の場であるとともに、医師とスタッフの交流の闊達化を目指して動線計画は行われ、医師間同士あるいは医師とスタッフとの情報交換を含む交流の場としてピロティ、ドクターラウンジなどが機会創出の場としてのその役割を担うだろう。
増築棟は建物の形態的特性や構造形式を含めて本院との連関性は認められない。ただ、樹木越しにシルエットとして社会に発信されるアクティビティの表出の在り方や、社会に開くことへの意思、または患者を迎え入れるホスピタリティの質などは本院と同一のものとしてここを訪れる人々に認知され、良好な環境を保証することを明示するだろう。