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YDCmコンセプト1
 
YDCmコンセプト2

解体工事が佳境を迎えるその建物の中を目を細め、ハンカチを口にあて、摺り足で歩く。
再生される百貨店の中、4階でオープンすることだけが決定している。それ以外、計画地となる場所も広さも確定されていない状態でここを訪れた。30数年前に建てられたこの建物の階高はあまりにも低く、その時は、歯科クリニックをここに開設することの困難さのみが予見できた。
ただ、僕の隣で院長は埃など気にする風でもなく正面を見据え、ましてや開設することへの不可能性など微塵も感じていないようだった。ひたすら前に進むのみ。この人はいつでもそうなのだ。
解体の爆音と巻き上がる埃から逃げるようにして僕らは一時的にバルコニーに避難した。
そこからこの街を俯瞰する。審美的評価に足る景観があるわけではない。街で過ごす日常の風景を俯瞰するもうひとつの視座が与えられ、新鮮な驚きがそこにはあった。その驚きは瞬時に伝搬し、そこにいた誰もが同音に様々な表現でそれを口にし、いくつかの冗談が飛び交ったあと、僕は「このテラスを内部化すること」の提案を行い、そしてこのプロジェクトが動き始めた。
 
「百貨店の中のクリニック」としての様態が主たるテーマとなる。
通路空間を『街路』と読み替えた時、街路への応答性として「開かれる」必要があることは明快だった。
物販を中心とした百貨店にあって、街路(通路空間)への参加性の高さこそが問われている。
クリニックの活動を伝えるためのショウウインドウを除き、すべてを(扉を設置することなく)開放することを提案したのは僕だったけれど、開放性を高めるためにショップを併設することを呈示したのは院長の方だった。その後、ショップは拡張を目的として隣接した場所に移されギャラリーとして利用することとなったが、(クリニックにとって2次的プログラムとなる)ギャラリーなどを経由してクリニックへアプローチするという様態は「待合室で待つ患者のプライバシー確保を担保しながら、開放度を高める」手法として、「百貨店の中のクリニック」に於ける導入方式のプロトタイプとなる可能性を有している。
天井高さを確保できないことは計画当初から明白だった。階高が低い上、床配管のため床上げを行わなくてはならない。ましては140坪という広さ、床上げの高さを最小化するためのあらゆる検討によっても、可能天井高さに大きく影響を与えることとなった。ここでは天井材を張ることではない天井の在り方こそが求められていた。何よりここは歯科クリニック、患者の視線は常にそこに注がれている。
様々なスタディの後、天井材を張る代わりに白い布を浮かばせてみた。その白い布はスラブ下を縦横無尽に走るダクトや配管類を視覚的に緩和しながら、半透過性を有する白い布が重なることで、天井に奥性を与える。スラブ下に設置した照明の光が白い布により拡散され空間全体が穏やかな光で満たすことももうひとつの目的だった。そして、この白い布はその抽象性を帯びながらも布の持つ不確定的形態を依拠とし、開院後、ここを訪れる子供たちから「くらげ」と呼応されることを知った。ワンフレーズで呼応される形態は親密性を有しながら、クリニックの印象として記憶に定着されていくだろう。
 
 
街並を俯瞰したあのバルコニーがあった場所にもう一度立ってみる。
ここは診察を受ける患者のための特別な場所となった。
自然光が背後の壁に影をおとし、時を告げる。
眼下には路面電車が走る。
信号が変わり、人の波もそれに同調する。
人の波の中に、急ぎ足で歩く自分自身をさがしてみる。

YDCmエントランス1
YDCm受付
YDCmエントランス2
YDCm手術室
YDCm診察室
YDCm通路
YDCmコンサル室
YDCmファサード