かつて子どもが地域によって育てられたように、地域に開き、地域を迎え入れることで地域と共生すること、そして子どもたちの健やかな成長を育むその背景となる「大きな家」を目指す。
地域との共生
「地域によって育てられる」とは「地域との共生の場の創出」と同義であり、地域に愛され、地域住民による活発な利活用の促進が行われる環境整備が必要となる。
「広場」を前面道路に対して(社会に対して)積極的に開くことにより、地域住民が気軽に訪れ、たとえば休みの日にはバザーが行えたり、近隣施設と連携した催しを開催したり、いつもここに来ると賑やかな場所であることを目指す。
日常利用においても親同士の、あるいは親と保育士、地域住民間の交流の機会の創出の場となり、大きく架けられた大屋根が「受け入れること」の象徴として地域をやさしく包み込むだろう。
そして「広場」の先には緑溢れる「散策路」が通じており、散策路は街のポケットパークのように喧騒から離れた地域の憩いの場となる。
散策路からはレベル差や樹木等の配置により一定のプライバシーを確保しながら、子どもの様子が見え隠れし(子どもの活動が樹木越しに散策路に映し出され)、あるいは子どもが散策路で佇む地域住民に手を振って応えたりとささやかで、けれど満たされた日常の風景が生まれることを期待する。
日常利用としては「屋外遊技場」は子どもたちの園庭として利用されるが、ハレの日には屋外広場を舞台とし、屋外遊技場を客席として見立てた「劇場空間」がここに生まれ様々な活動が行われたなら、日常性のなかに非日常が挿入された特別な空間として、多くの地域住民に愛されるランドマークとして記憶されるだろう。
地域住民がこの場所を愛し、子供たちもまさに近隣住民を隣人として迎える環境整備こそ必要であると考える。
散策路のベンチに腰をおろした老人に子どもたちが話しかけ、そこに小さな交流の萌芽があり、その交流がやがて日常の風景となり、互いに支え合うことへの意識とし繋がったとき、かつて子どもたちが地域によって育てられた風景が立ち現れてくるのではないか。
「大きな家」
「大きな家」には大きな屋根こそふさわしく、内部空間にあってもそれは子どもたちを大きく包み込む。大きな屋根の下にさらに内包されるようにして目的的室(目的をもった室)が小さな屋根を持ちながら大きな屋根の下に配置される。
そして小さな屋根によって切り取られ残った空間は「あそび路」と呼応し、トップライトや高窓より自然光が降り注ぎ、開け放れた窓より風が通り抜ける「半外部空間」とし、雨天時利用を含めた子どもたちの遊びの場となる。
半外部空間のそこは目的的室によって切り取られたゆえに不整形で不均質な、見通しのきかない空間(場所)となるが、そこで生まれる空間の多様さこそが自然の(あるいは社会の)縮図ともいえ、子供たちはその場所の特性を読み込み、自らの意思で居場所を選び取り、様々活動をはじめるだろう。
そうした自らの選択による自由さは子どもへ向けられた尊厳そのものであり、自由な居場所の選択を広げることを目的として、あるいは「遊び」が「場所」に誘発されて広がることを目的として空間のヴォリュームや光の質や量、広さや高さといった空間のヴァリエーションを豊かなものとしなければならない。
また、目的的室は原則的に10角形で切り取られたピースの集合体により生まれる形態とすることで求心性を与える特別な部屋とし、保育室や図書室にあっては散策路に投げ出されるように配置し、結果として緑の中を漂い、全方位的に視界が広がる船の中にいるような航海への高揚感と近似した空間体験となることを目指す。